あたりを見まわした

 ガリオンの心をいらだたせていたのは、すべてが道理にかなっていないことだった。何ひとつとしてかれが望んだことではなかった。かれは魔術師などになりたくなかった。リヴァの王になどなりたくなかった。今となっては本当にセ?ネドラ王女と結婚したかったのかさえ、あやしかっDSE數學た――とはいえ、この点に関してはふたとおりの考えがあった。小さな王女は――特に彼女が何かをほしがっているときは、この上もなく魅力的だった。だがそれ以外のとき、つまり何もほしがってはいないときは、彼女の本性があらわれた。それを考えれば、ある種のあきらめをもって前途に待ち受ける運命を、おとなしく甘受した方がましなように思えた。どちらにせよ、ガリオンには逃げ道はないのだ。かくしてかれは何も知らぬげな空に向かってたずねずにはいられなかったのだ――「なぜ、ぼくが?」と。
 まどろむ祖父のかたわらにくつわを並べるかれの伴侶は、つぶやくような〈アルダーの珠〉の歌しかなかったPretty Renew雅蘭。だがそれすらも今のガリオンにとってはいらだちの種だった。背中にくくりつけられた巨大な剣のつか[#「つか」に傍点]におさまった〈珠〉は、ほとんど盲目的な熱意をもって、くり返し歌いかけていた。〈珠〉にとっては、きたるべきトラクとの戦いは喜ばしいことなのかもしれないが、アンガラクの竜神とじっさいに対決しなければならないのは、ガリオンなのだ。そしてじっさいに血を流さなければならないのもガリオンなのである。〈珠〉の変わらざる上機嫌は――これらすべてを考えあわせてみれば――控え目に言っても、たいそうさもしい精神だと言わざるを得ない。
〈北の隊商道〉をまたぐようにして、ドラスニアとガール?オグ?ナドラクの国境があった。岩のごつごつした山道の双方にドラスニアとナドラクの守備隊が、一本の横木をわたしただけの簡単な遮断機をはさんで配置されていた。遮断機それ自体は、さほどの効果があるようには見えなかった。だが象徴的な意味において、それはボー?ミンブルやトル?ホネスの城門よりも、はるかに威嚇的な効果を持っていた。国境のこちら側は西の国々であり、向こう側は東
の国々だった。一歩ここをまたいだら、そこはまったく別の世界なのである。ガリオンはその一歩を踏まずにすむことを心から願わずにはいられなかった。
 シルクの予言したとおり、マルガーは自分の疑念をドラスニアの槍兵にも、ナドラクの革衣の兵にもしゃべらなかった。一行はさしたる支障もなくガール?オグ?ナドラクの山地に足を踏み入れた。国境を越えるやいなや、隊商道はとうとうと流れ落ちる沢の横を走る、急峻な狭い峡谷の道に変わった。両側の切り立った岩壁は黒々としており、一行にのしかかってくるかと思われた。頭上にのぞく空は汚れた灰色のリボンのように細長くのびていた。岩壁にこだまするラバの首のベルの音が、轟音たてて流れ落ちる水音に唱和した。
 ベルガラスは目を開け、油断怠りなく。老人はシルクに口をはさまぬよう、警告の視線を投げかけてから、おもむろにせき払いした。「世話になった礼を言わせてもらおう、高潔なマルガーよ。おまえたちの取引がうまくいくように祈っとるよ」
 マルガーは問いただすような鋭い視線を、老魔術師に向けM 字額た。